従業員がうつ病を発症し、その影響で自殺してしまいました。会社は何らかの責任を負うのでしょうか。
更新日:2020.02.19
ご質問:
従業員がうつ病を発症し、その影響で自殺してしまいました。その従業員は毎日夜遅くまで仕事をしており、徹夜することもしばしばありましたが、まさか自殺するとまでは思ってもいませんでした。会社は何らかの責任を負うのでしょうか。
回答:
1 民事上の損害賠償責任
(1) 安全配慮義務
労働契約法上、会社は、「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」(労働契約法5条)義務を負っています。この義務は「安全配慮義務」と呼ばれており、会社が安全配慮義務に違反したことによって、従業員に損害が生じた場合には、会社は従業員の損害を賠償する責任を負うことになります。
実際に、最高裁判所平成12年3月24日判決(民集54巻3号1155頁、以下「電通事件」といいます)は、恒常的な長時間労働により従業員がうつ病になって自殺した事案について、会社は「その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と述べた上で、会社がこの義務に違反したと判断し、会社の従業員に対する損害賠責任を認めました。
(2) 本件の検討
本件の事例も、従業員が長時間の労働によってうつ病になり、自殺に至ったのであれば、会社に安全配慮義務違反が認められ、会社が損害賠償責任を負うことになる可能性があります。会社が損害賠償責任を負うと判断された場合には、会社は、自殺した従業員が将来得たであろう収入のうち一定割合の金額や死亡に対する慰謝料など高額な賠償金を支払うことになると考えられます。
2 その他の責任
ここでは、詳細に説明しませんが、本件のような事案では、刑事責任や社会的責任を負う場合もあります。
会社が、従業員に対して、労働基準法が定める上限規制(労働基準法32条、36条6項など)を超える長時間労働をさせた場合には、会社やその代表者等に対して、懲役刑や罰金刑という刑事罰が規定されております(労働基準法119条、121条)。電通事件でも民事訴訟だけでなく、労働基準法違反の刑事事件として会社は略式起訴され、罰金刑が言い渡されました。
また、長時間労働による自殺が疑われてしまうと、マスコミ報道により社会から批判される等により、会社の事業や信用に影響を及ぼす可能性もあります。
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