既婚者である社員同士の不倫関係が発覚したため、就業規則(社員が「職場の風紀・秩序を乱したとき」には懲戒解雇できるとの規定)に基づき、当該社員を懲戒解雇することはできないでしょうか。
更新日:2020.05.21
ご質問:
社内において、既婚者である社員同士の不倫関係が発覚したため、当該社員らに対し、関係を解消するよう指導しましたが、当該社員は、会社とは無関係との態度を示しております。現時点では、不倫関係の存在により、他の社員や取引先との関係に影響を与えるといったことはないため、当社の業務に支障は来たしておりません。ただ、職場の規律が乱れたり、不倫をめぐるトラブルに当社が巻き込まれる可能性がありますので、就業規則(社員が「職場の風紀・秩序を乱したとき」には懲戒解雇できるとの規定)に基づき、当該社員を懲戒解雇することはできないでしょうか。
回答:
職場における社員同士の恋愛や不倫関係は、あくまで私生活上の行為であるため、原則として懲戒解雇の対象とすることは難しいと考えられます。
参考になる裁判例(繁機工設備事件・旭川地方裁判所平成元年12月27日 労判554号17頁)があります。この裁判例は、女性従業員が妻子ある同僚男性と不倫関係となり、社内、取引関係に知られるところとなったため退職するよう伝えたが、プライベートなことであるとして、これを拒否したため懲戒解雇した事案でした。裁判所は、「『職場の風紀・秩序を乱した』とは、これが・・・懲戒事由とされていることなどからして、会社の企業運営に具体的な影響を与えるものに限ると解すべき」であるとの考えを示し、当該事案においては「企業運営に具体的な影響を与えたと一応認めるに足りる疎明はない」として、懲戒解雇処分を無効と判断しています。
ご質問のケースでは、社員らに不倫関係を解消するように指導し、これに応じる姿勢を示さなかったとしても、当該不倫関係により、会社の業務遂行に支障は出ていないとのことですので、社内不倫を理由とする懲戒解雇処分は無効となる可能性が高いと考えられます。
なお、社内不倫が会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるなどして、会社の業務遂行に影響を来たすような場合には、懲戒解雇の有効性を認めた裁判例(長野電鉄事件・東京高等裁判所昭和41年7月30日・労判25号6頁)もあります。
社内不倫を理由として解雇する場合には、業務への影響、会社の体面・信用への影響、会社が被った損害等を総合的に考慮した判断が必要となりますので、個別の事案については、経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。
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