就業規則にて、時間外労働を行うためには、上長の事前の承認が必要であることを定めました。この規定に反して残業を行う従業員に対しても残業代を支払わなければならないのでしょうか。
更新日:2021.08.11
ご質問:
当社では、従業員の残業が常態化していたため、就業規則にて、時間外労働を行うためには、上長の事前の承認が必要であることを定めました。この規定に反して残業を行う従業員がまだいるのですが、このような従業員に対しても残業代を支払わなければならないのでしょうか。
回答:
残業を行うにあたって、事前の承認を必要とする制度を採用しているという事実だけでは、残業代を支払わなくていいということにはなりません。
労働者が、就業規則で定められている事前承認の制度に反して残業を行っていたとしても、それが労働時間、すなわち、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間であれば、使用者は労働者に対して残業代を支払う義務が生じます。
この点に関し、裁判例では、「被告が原告に対して所定労働時間内にその業務を終了させることが困難な業務量の業務を行わせ、原告の時間外労働が常態化していたことからすると、本件係争時間のうち原告が被告の業務を行っていたと認められる時間については、残業承認制度に従い、原告が事前に残業を申請し、被告代表者がこれを承認したか否かにかかわらず、少なくとも被告の黙示の指示に基づき就業し、その指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当であり、割増賃金支払の対象となる労働時間に当たるというべきである」(東京地判平30・3・28労経速2357号14頁)と判示し、使用者の事前承認がない場合における時間外労働についても、労働時間に該当するものとして、残業代の支払いを命じています。
この裁判例からすると、残業することもやむを得ないと判断されるほどの業務量を与えていた場合には、事前承認制のルールに形式的に違反していたとしても、使用者が黙示の指示を行ったとして労働時間該当性が認められる可能性が高いといえます。
残業を行う場合に事前承認制を採用したとしても、どの程度厳格に運用しているかという点も、労働時間該当性を判断するうえでは重要な要素になると考えられますので、そのような制度を採用する場合や、採用していたとしても運用方法などで疑問をお持ちの方は、一度専門家にご相談することをお勧めします。
時間外労働・変形労働時間制 等に関する労務等、いつでもお気軽にご相談ください。

1984年生 / 札幌弁護士会所属(66期)
2013年12月 アンビシャス総合法律事務所 入所
重点取扱分野:事業再生 / 倒産
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