女性従業員からセクハラを受けているとの相談を受けました。穏便に収めたいと思っていますが、対応の仕方についてアドバイスはあるでしょうか。
更新日:2021.06.07
ご質問:
先日、女性従業員からセクハラを受けているとの相談を受けました。
小規模のアットホームな会社なので、今までにそのような相談などを受けたことはなく、初めてのことで驚きました。
今は、セクハラ被害を受けたという従業員から大雑把に話を聞いただけですが、今後、事実かどうかなどを確認しなければならないとは思っています。
社長である私が従業員から話を聞いて、穏便に収めたいと思っていますが、セクハラなどはときどき大きな問題になっているので、そのような対応でよいか不安です。
対応の仕方についてアドバイスはあるでしょうか。
回答:
セクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどの職場内でのハラスメントについて、近年、社会問題として注目を浴びるようになっており、ニュースで大きく報じられることもあります。
ハラスメント行為は、民法、労働契約法、男女雇用機会均等法などの法律によって行為そのものが違法となることも、また、会社がそのような行為を放置したことが違法になることもあります。そして、細かい説明は割愛しますが、会社は、ハラスメントを防止する対策を講じることが義務付けられております(女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、厚生労働省のガイドラインなど)。
そして、従業員からハラスメントの報告を受けた場合、使用者は、これに適切に対応しなければなりません。報告を受けておきながら、きちんと調査等をせずにいると、そのことによって会社の責任を問われることもあります。
そこで、ハラスメントの報告を受けたときの取るべき対応を以下に整理しますので参考にしてください。
1.ハラスメントの報告、相談、申出などを受けたら、調査委員会を設ける。
- ・調査委員会は、複数のメンバーで構成すること、具体的には3名程度にすることが望ましいです。
- ・調査委員会の構成員は、当事者と関係(仕事上の関係、個人的関係など)が無い又はできるだけ薄い中立な者にすべきです。また、できる限り、弁護士などの中立な外部の者を加えるべきです。
- ・会社の規模等から、複数のメンバーにすることが難しいような場合には、会社の担当1名及び弁護士1名などの構成にせざるを得ないこともあります。具体的事情に応じて、外部専門家と相談して構成を決めるのが適切です。
2.当事者からの聞き取りを行う。
- ・聞き取りにあたっては、先入観なく、どちらにも肩入れせずに、中立に聞くことが必要です。
- ・聞き取りは、できるだけ周りのものに悟られないように配慮して行う必要があります。例えば、場所について、当事者の執務場所の会議室などは避けるべきで、別の事業所や弁護士の事務所などで行うべきです。
- ・聞き取りは以下に述べるとおり、具体的かつ詳細に聞くことになりますので、時間がかかることもあります。正確に記録するために録音しておくべきでしょう。
- ・まずは、ハラスメント被害を申告した者から詳しく聞き取りを行うことになります。聞き取りに際しては、具体的にどのような言動等があったのかを、詳細に確認する必要があります。
例えば、「お尻を触られた」と申し出ている場合、「いつ」「どこで」「どのような状況で」「どのようにして(背後からか前から手を回してか、手の平か手の甲か、掴むまでしていたか軽く触れた感じか、どれくらいの時間かなど)」を正確に確認すべきです。
また、対象となる行為だけでなく、行為の前後の言動、日ごろの言動なども確認する必要があります。 - ・行為者から聞くことも必要です。ただ、被害を申告した者には、一方的な話だけで結論づけられないこと、行為者からの聞き取りを行う必要があることを説明しておくべきです。
- ・行為者からの聞き取りは、被害を申告した者から説明を受けた具体的行為等について事実の有無を確認することが中心となります。被害を申告した者への聞き取りと同じく、具体的かつ詳細に確認することになります。
- ・双方の説明の結果、必要があるときには再度の聞き取りを行うこともあります。
3.資料などの収集
- ・対象となる行為を示すものが本人の説明のみのこともありますが、メール、LINEなどの資料がある場合には、それらの提出を求めます。
- ・対象となる行為そのものの資料でなくとも、当事者間の普段のやり取りが参考になることもありますので、そのようなものの有無も双方に確認して提出を求めます。
- ・今はスマートフォンで、いつでも手軽に録音することができます。そのため、被害を申告した者が録音していることもあります。録音データがあれば提出を求め、内容を確認します。
4.関係者からの聞き取り
- ・当事者双方の説明に食い違いがなければ、その他の者から聞き取る必要はありません。
しかし、多くの場合、当事者の説明が食い違うものです。そのような場合、上記の資料でも事実が何かの判断が難しければ、関係者(その場に居合わせた者など)から聞き取りを行うことも考えるべきです。 - ・関係者からの聞き取りは、極めて慎重に行わなくてはいけません。関係者に聞くことは、ハラスメントのトラブルが生じていることを第三者に知らせてしまうことになります。その結果、当事者(被害を申告した者、行為者のいずれについても)が職場で肩身の狭い思いをすることもあります。
聞き取り対象の関係者には、他言しないことを厳に守ってもらう必要があります。
5.事実の有無の判断
- ・以上を踏まえて、調査委員会で、具体的にどのような行為があったのか/なかったのかについて判断します。また、行為があったと判断する場合、それがハラスメント行為となるかについても検討します。
- ・この判断は、当事者の説明に食い違いがあり簡単ではないことも多くあります。そのためにも、1人で判断するのではなく、複数名で委員会を構成することが望ましいのです。
- ・判断にあたっては、感覚的なものも大切ですが、判断過程、判断の根拠を言葉(文章)で説明できるように論理的に判断を下すことが重要です。論理的に文章化できなければ、恣意的な判断だと思われてしまいます。
このような論理的な事実の有無の判断については、多くの人は普段やったことが無く、非常に難しいことだと思います。そのために、調査委員会には、専門家である弁護士などを加えるのが望ましいのです。 - ・調査委員会で事実の有無を協議して結論付けたら、報告書として書面にまとめるべきです。書面にまとめる過程で、判断が論理的か否か、説得的か否か等を再検証することになります。
- ・行為があったと判断する場合に、ハラスメント行為になるか否かの協議結果についても報告書に意見として記すことが多くあります。
6.調査報告・処遇
- ・調査報告書を役員会などに提出するとともに、必要に応じて口頭でも報告を行います。
- ・役員会などでは、調査報告書に基づいて、報告内容の判断の是非を確認します。多くの場合は、調査委員会の判断を支持するでしょうが、役員会として調査報告書を参考に判断すべきです。
- ・役員会などの結論として、ハラスメント行為に該当するとの結論となった場合には、就業規則等に基づいて処遇を判断することになります。この点については、別の記事で解説します。
- ・ハラスメント行為に該当しない場合でも、当事者双方がトラブルになった事実に変わりはないので、職場環境の調整を検討することが必要となります。配置転換などが典型的ですが、組織により可能な調整の範囲は異なります。
- ・調査結果については、当事者双方にも伝えることとなります。
以上、ハラスメントの申告等がなされた場合の調査対応について説明しましたが、実際に調査をするとなると、非常に難しいものです。対応を誤れば会社が責任を負うこともあるので、弁護士等の専門家の協力を求めることを強くお勧めします。
セクシュアル・ハラスメントに関する労務等、いつでもお気軽にご相談ください。
1970年生 / 札幌弁護士会(55期)
2007年4月 アンビシャス総合法律事務所 設立
2008年6月 日本弁護士連合会外国弁護士及び国際法律業務委員会委員(~2014年5月)
2009年5月 北海道情報公開・個人情報審査会委員
2011年1月 (財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター専門家相談員就任
2011年8月 北海道税務・事業再生実務者ネットワーク世話人就任
2012年6月 札幌市公文書管理審議会委員(~2016年5月)
2014年4月 北海道知的財産戦略本部幹事
2014年4月 日本知的財産仲裁センター北海道支所長
2014年5月 日本弁護士連合会知的財産センター委員
2016年3月 北海道曹達株式会社社外取締役就任
2016年4月 札幌弁護士会知的財産権委員会委員長
重点取扱分野:知的財産(特許法・著作権法・不競法)・IT、M&A・事業承継、労働問題、事業再生・倒産、リスクマネジメント
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