当社は病院を経営しています。新型コロナウイルス感染症による感染者の介助・看護等のために従業員の労働時間を延長したり、休日出勤させることはできるのでしょうか。
更新日:2020.05.13
ご質問:
当社は病院を経営しています。新型コロナウイルス感染症による感染者の介助・看護等のために従業員の労働時間を延長したり、休日出勤させることはできるのでしょうか。
回答:
1 労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働
労働基準法第33条第1項は「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」において、使用者は、行政官庁の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)を受けて、その必要な限度において法定の労働時間を延長し又は法定の休日に労働させることができると規定し、非常事由による時間外・休日労働をさせることができると規定しています。
同条項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合に適用される規定ですので、厳格に運用すべきものと解されています。そのため、「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するかどうかは、業務の内容や新型コロナウイルス感染症に関連した感染症への対策状況、当該労働の緊急性・必要性などを勘案して個別具体的に判断することになります。
なお、本条項による場合であっても、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要になります。
2 新型コロナウイルス感染症の場合の適用
今回の新型コロナウイルス感染症が指定感染症に定められており、急病への対応は、身体・生命の保護や一般市民への拡大を予防する等の公益保護の観点からも、急務と考えられますので、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当し得るものと考えられます。
また、病院だけでなく、新型コロナウイルスの感染・蔓延を防ぐために必要なマスクや消毒液、治療に必要な医薬品等を緊急に増産する業務についても、原則として同項の要件に該当するものと考えられます。
ただし、単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要があるに過ぎない場合は、同条項の要件には該当しないと解されていますので、判断に迷う場合は、労働基準監督署等に事前に相談することが望ましいと考えます。
労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなど、従業員の立場に十分配慮した労働状況を適切に管理することが重要です。
3 その他の方法
⑴ 変形労働時間制(1年単位)の柔軟な運用
既に1年単位の変形労働時間制を既に採用している事業場において、新型コロナウイルス感染症の影響により、当初予定した変形労働時間制を実施することが企業の経営上著しく不適当と認められる場合には、特例的に、1年単位の変形労働時間制の労使協定について、労使で合意解約をし、又は協定中の破棄条項に従って解約し、改めて協定し直すことも可能です。
なお、合意解約までの期間を平均し、1週40時間を超えて労働させた時間について割増賃金を支払うなど協定の解約が労働者にとって不利になることのないよう留意しましょう。
⑵ 特別条項付きの36協定の締結
36協定においては、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)には、限度時間(月45時間、年360時間)を超えることができるとされています。
今般の新型コロナウイルス感染症の状況については、36協定の締結当時には想定し得ないものであり、36協定の「臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合」に、繁忙の理由が新型コロナウイルス感染症とするものであることが明記されていなくとも、一般的には、特別条項の理由として認められるものと解されています。
また、現在、特別条項を締結していない事業場においても、法定の手続を踏まえて労使の合意を行うことにより、特別条項付きの36協定を締結することが可能です。
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