従業員に対し、定期健康診断を受けないことを理由として懲戒処分を下すことはできるのでしょうか。
更新日:2020.05.21
ご質問:
当社では、毎年1回、定期健康診断を実施しているのですが、ある従業員が健康診断を受けることを拒否しています。当該従業員に対し、定期健康診断を受けないことを理由として懲戒処分を下すことはできるのでしょうか。
回答:
会社は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対して医師による健康診断を実施しなければならず(労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第43条)、雇い入れた後も、1年以内ごとに1回、定期に医師による健康診断を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第44条)。そして、労働者は、原則として、使用者が実施する健康診断を受けなければなりませんが、使用者の指定した医師による健康診断を受けることを希望しない場合には、他の医師の行う所定の健康診断を受けて、その結果を証明する書面を使用者に提出すれば、使用者の指定した医師による健康診断を受ける必要はありません(労働安全衛生法第55条第5項)。
そのため、ご質問のケースでは、当該従業員が会社の指定した医師の健康診断を受けることを拒否しているとしても、他の医師による健康診断を受けて、その結果を証明する書面を提出するのであれば、労働安全衛生法には違反しないため、懲戒処分を下すことは困難です。他方、当該従業員が会社の指定した医師の健康診断を受けることを拒否し、他の医師による健康診断の結果を証明する書面も提出しないということであれば、これを理由として懲戒処分を下すことができる可能性があります。ただし、後者の場合にも、当該従業員が健康診断を受けることができない正当な理由がある場合には、懲戒処分を下すことが困難となることも考えられますので、慎重な検討が必要となります。
なお、従業員が健康診断の受診を拒否したことを理由に、会社が当該従業員に懲戒処分を下した事案について、裁判所が下した懲戒処分を有効と判断した判例(最高裁判所第一小法廷昭和61年3月13日判決)がありますので、紹介させて頂きます。

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