課長職の社員に対して、時間外の割増賃金として、残業、休日出勤、深夜労働に対する賃金を支払わなければいけないのでしょうか。
更新日:2020.05.22
ご質問:
当社で課長職を務めているA氏から、時間外の割増賃金として、残業、休日出勤、深夜労働に対する賃金を支払うように要求されました。理由は、タイムカードによる勤怠管理が行われていること、管理職としての手当てがあるA氏の給与よりも、役職の無い従業員の方が割増賃金の額によっては高額な給与となる場合があることなどです。当社としては、就業規則上、課長職は管理監督者である旨を明文化していますので、A氏からの要求に応じる必要はないと考えていますが、A氏の要求が認められる可能性はあるのでしょうか。
回答:
A氏が、労働基準法第41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」といいます)に該当すれば労働時間・休憩・休日の規定は適用されませんので、深夜労働を除く割増賃金を支払う必要はありません。深夜労働については、規定が除外されていませんので、午後10時から翌朝5時までの労働に対しては、割増賃金の支払いが必要になります。したがって、A氏が管理監督者に該当するか否かにかかわらず、深夜労働に対する割増賃金については使用者に支払義務が生じます。
管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものとされています。
裁判例の多くは、①職務内容、権限及び責任の重要性、②労働時間について自由裁量があるか否か、③給与または賃金体系において、職務内容権限及び責任に見合った待遇がされているかの3点に留意し、個別の事案ごとに具体的事実を総合的に考慮して判断していると考えられています。
ご相談のケースですと、まず、A氏はタイムカードによる勤怠管理が行われているとのことですので、上記考慮要素②の観点からすると管理監督者性を否定する方向に考えられます。
もっとも、単に出勤確認のためや給与計算の便宜上タイムカードを使用していたにすぎない場合や、遅刻・早退が給与に影響されない場合は、必ずしも労働時間に自由裁量がないとはいえません。
また、A氏は役職の無い従業員よりも、割増賃金の額によっては給与が少なくなる場合があるとのことですので、上記考慮要素③の観点からすると管理監督者性を否定する方向に考えられます。
しかし、そのような場合が極めて例外的な場合にすぎなかったり、賞与等を含めた賃金体系でみるとA氏の職務内容権限及び責任に見合った待遇がなされているといえれば、管理監督者性は肯定される方向にはたらくでしょう。
以上のほか、①の点についても、A氏は課長ということですが、具体的な職務内容や権限などに基づいて検討する必要があります。
以上のとおり、管理監督者性を判断するための考慮要素には、いずれの要素についても、明確な基準があるわけではなく、各要素が複合的に判断されます。ご相談のケースにおいては、A氏が管理監督者に該当しない可能性がありますので、Aの要求は認められる可能性があるということになります。具体的かつ詳細な事実を確認して管理監督者性を検討することが必要となりますので、このような場合には、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。
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