月曜日の商談に観光も兼ねて前日入りする従業員から「日曜日の移動時間は、出張のための労働時間だ」と主張された場合には、賃金を支払わなければならないのでしょうか。
更新日:2021.08.04
ご質問:
当社は、札幌市に所在する会社です。当社は土曜日と日曜日が休日です。この度、当社の営業担当の従業員が月曜日の昼に帯広市で商談があるから、観光も兼ねて前日の日曜日に前入りしたいと言っています。当社としては、日曜日に帯広市に行く必要はないと考えていますが、従業員が望むならそれは構わないと考えています。この場合、もし当該従業員から「日曜日の移動時間は、出張のための労働時間だ」と主張された場合には、賃金を支払わなければならないのでしょうか。
回答:
ご質問のケースにおいては、従業員に対して賃金を支払う必要はないと考えます。
一般的に、従業員の「通勤」という行為は、労働力を使用者(会社)の元へ持参するための準備行為と位置づけられるものであって、業務性を欠き、通常は自由利用が保障されていることから、通勤時間が労働としての時間であるとは認められません。
このことは、休日に出張先へ移動したとしても同様に考えられます。すなわち、仮に従業員が休日に出張先に移動したとしても、出張の際の往復に要する時間は、通常は自由利用が保障されているので、労働者が日常の出勤に費やす時間と同一であると考えられることから労働時間には該当しません。
裁判例(横浜地裁昭和49年1月26日判決)においても、「実際に得意先で商談に要した時間が労働時間であり、移動時間は日常の出勤に費やす時間と同一の性質といえるので労働時間ではない」と判断しているものがあり、行政解釈でも「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であつても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差支えない」(昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号)としています。
したがって、単なる出張先への移動であれば、通常の通勤と同様、業務性がなく、使用者の指揮命令下に置かれているとは評価できませんので、労働時間には該当しないと考えられますが、他方、物品の監視・配送や人の引率を伴う等、出張先への移動自体が業務性を有している場合は使用者の指揮命令下に置かれていると評価することができますので、出張先への移動時間を労働時間として扱う必要があります。
以上のことから、ご質問のケースでも、あえて日曜日に移動する必要はなく、業務性もないと考えられますので、移動時間が労働時間とは認められないことから、従業員に対して賃金を支払う必要はありません。
労働時間・休憩・休日に関する労務等、いつでもお気軽にご相談ください。
1985年生 / 札幌弁護士会所属(68期)
2019年5月 アンビシャス総合法律事務所 入所
重点取扱分野:労働法務 / 民事訴訟
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