昨年退職した従業員から未払残業代の請求を受けました。その従業員は日中も残業中も私的なメールやインターネットをブラウジングしたりしていることがありました。請求の拒絶は可能でしょうか?
更新日:2020.05.21
ご質問:
昨年退職した従業員から未払残業代の請求を受けました。きちんと算出して生じる未払いの残業代を支払わなくてはいけないことは理解していますが、その従業員は日中も残業中も私的なメールをしたり、私的にインターネットをブラウジングしたりしていることがありました。きっと、そういった私的な行為の時間を累積するとかなりの時間になるのではないかと思いますので、請求を拒絶したいと思っていますがどうでしょうか。
回答:
1 ノーワークノーペイの原則
賃金は従業員の労働への対価ですので、労働をしていない時間については賃金を支払う必要はありません(ノーワークノーペイの原則)。ただし、業務を行っていなかったとしても、会社の指揮命令下にある時間については賃金支払いの対象になります。具体的には、行うべき業務があるのに仕事をさぼっていた時間は賃金支払いの対象とはなりませんが、就業時間中になすべき業務をすべて完了し、他の業務が一切ないのでやむなく業務指示があるまで待っているような時間は賃金を支払う必要があります。
ご相談の件では、残業時間も発生していたということからすると、定時の就業時間中に業務がなくなって待っていた間に私的なメールやインターネット利用をしていたということではないでしょう。つまり、さぼっていたといえますので、理論的にはノーワークノーペイの原則に従い賃金を支払う必要はありません。
2 立証等の困難の問題
理論的には1のとおりですが、実際にお考えのような主張をして、争いが訴訟等に発展する場合、業務をしていなかったとの主張を立証することに困難が生じることがあります。
会社に残っているデータから、私的メールや、私的なインターネット利用のログが残っていれば私的利用の頻度やある程度の概算時間を算出することができる場合もあります。しかし、多くの場合、私的利用の頻度や時間を算出することは困難です。
また、業務内容によっては、インターネット利用が業務に関するか否かを分類することが困難なこともあります。
詳しい事情を確認した上ではありますが、立証が困難であっても、理論上主張できることは主張しておくべきですので、請求に対して、業務を離れて私的行為があったことの主張はすべきです。ただ、紛争が深刻化した場合には、立証の困難性から主張が採用されない可能性があるということは理解していただく必要があります。
3 社内ルールの整備等
上記2の問題のほか、紛争が訴訟等に発展した場合、多少の私的行為については必要な息抜きとして労働時間から控除する必要はないと評価される可能性もあります。
誰でも息抜きなくずっと集中して業務を行うことは不可能です。したがって、業務の合間のちょっとした息抜き、例えば外の空気を数分吸いに行ったり、軽く体操したりしていたとしても、それらも含めて業務時間といえます。ただし、このような息抜きは、業務を行っているのか、息抜きをしているのかを判別しやすいですが、デスクに座ってメールを作成したり、インターネットを利用する場合、判別が難しいために息抜きの程度を超えて私的利用していても見極められません(そのため、上記2の問題が生じます)。
会社としては、技術的に業務とは明らかに無関係なインターネットサイトへのアクセスを禁じる等の対応をするだけでなく、就業規則にメールやインターネットの私的利用を禁止すること、それらの禁止行為に違反した場合には懲戒処分の対象となり得ることを規定し、従業員への周知徹底を図るべきでしょう。さらに、実際に私的利用を見かけたら、注意するとともに、改善されない場合には注意した日時や場所、内容等をまとめた記録を作成したり、反省文を提出させるように日ごろから対応しておくべきです
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