当社は、固定残業代の制度を用いていますが、注意すべき点を教えて下さい。
更新日:2019.10.25
ご質問:
当社は、固定残業代の制度を用いていますが、当社の制度が法的に見て問題がないものかどうか、不安があります。ブラック企業と言われないように、この機会に確認したいと思いますので、注意すべき点を教えて下さい。
回答:
1.固定残業代(みなし残業代)とは?
固定残業代の制度が有効とされるためには、いくつかのポイントがあります。本稿で紹介させて頂くポイントを抑えて、正しく運用することが必要です。
固定残業代(みなし残業代)というのは、企業が予め一定時間の残業を想定して、月給に残業代を固定で記載し、残業代を計算しなくても、固定した残業代を支払うという制度です。残業代の発生や残業代を計算する事務負担を抑制することを目指して、導入している会社も多いと思います。しかしながら、固定残業代の制度を誤解したまま運用されている例も多く、労使間のトラブルに発展する事例も多々あります。
2.固定残業代についてよくある誤解
例えば、私も、相談者から「その月に何時間働いても、予め定めている固定残業代だけを支給すれば良いのではないですか?」「残業代の管理や計算をしなくても良い?」「固定残業代の額だけ定めていれば具体的な残業時間を定める必要はない?」等の質問を受けることがあります。しかし、これらはいずれも誤解です。例えば、固定残業代を50,000円と定めている会社の場合、従業員のその月の残業代が50,000円分に満たない場合でも、会社は従業員に対して固定残業代として50,000円を支払わなければなりません。他方で、従業員のその月の残業代が50,000円分を超えた場合には、1円単位で超えた分を支払わなければなりません。そのため、固定残業代の分を超えた残業が生じた場合には、会社は残業代を支払わなければなりませんし、その前提として残業代の管理や計算をすることが必要になります。
固定残業代のチェックポイント
-
固定残業代を取り入れる場合には、以下の点を確認することが必要です。以下の点のいずれかが抜けてしまっている場合には、そもそも有効な固定残業代の制度とは見なされずに、最初の1分から全ての残業代を支払わなければならなくなる可能性があります。
(1)時間を明示すること
雇用契約書に「固定残業代○○円(固定残業代として○○円を含む)」とだけ記載されている例を見かけることがありますが、これだと何時間分の割増賃金が含まれているのかが明確ではありません。そのため、「固定残業代○○円(○○時間分)」「月給○○円(○○時間分の固定残業代○○円を含む)」等の形式で、求人票、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則、賃金規程等(以下「雇用契約書等」といいます)に時間を明記する必要があります。(2)金額を明示すること
雇用契約書に「基本給○○円(固定残業代を含む)」とか「基本給○○円(1カ月20時間分の残業代を含む)」とだけ記載されている例を見かけることがありますが、これだと固定残業代の金額がいくらかのかが明確ではありません。そのため、「固定残業代○○円(○○時間分)」等の形式で、雇用契約書等に時間を明記する必要があります。(3)他の賃金と区別して記載すること
例えば「基本給○○円(固定残業代として○○円を含む)」とか「職務手当の一部に固定残業代を含む」といった形で固定残業代と他の賃金の区別が明確にされていない例を見かけることがありますが、これだと固定残業代がいくらなのかが明確ではありません。固定残業代については、固定残業代のみを独立させて明記する必要があります。(4)最低賃金を下回っていないこと
当然のことながら、金額と時間の設定については、最低賃金を下回らないように事前に残業代として計算をしておかなければなりません。(5)差額が生じた場合の取扱を明示すること
固定残業代の制度が正しく運用されるためには、時間外労働の割増賃金の額が、固定残業代の額を上回った場合には差額を支給する必要がありますので、その旨を雇用契約書等に明記すべきです。まとめ
会社としては「固定残業代で残業代は全て支払っている」という認識を持っていることが多いと思いますし、従業員としても「いくら残業しても給料は変わらない」といった認識を持っていることが多いと思いますが、いずれも誤解です。間違った認識のままで、制度を運用していると、固定残業代が認められず、従業員から残業代を請求された場合に、全ての残業代を支払わなければならなくなってしまいます。この機会に今一度ポイントを確認して頂いて、正しい制度運用を行うようにして下さい。
労働時間・休憩・休日に関する労務等、いつでもお気軽にご相談ください。
当事務所の業務の中心は企業法務です。企業法務の中でも労務関連分野は、法律の制定や改正、経済の動向や社会情勢の変化の影響を受けやすいため、最新の事例を踏まえた柔軟な対応を求められます。
当事務所の弁護士や社会保険労務士、司法書士は、労務分野の諸問題に積極的に取り組んでいます。
何らかのトラブルや問題を抱えておられる方は、いつでもお気軽にお問合せください。
よく読まれている記事
- 始業前の準備時間も労働時間として認定されてしまうのでしょうか。(2019.10.25)
- 月曜日の商談に観光も兼ねて前日入りする従業員から「日曜日の移動時間は、出張のため...(2021.08.04)
- お盆休み、年末年始休みは休日としなくてはなりませんか。(2019.05.04)
- 当社は、固定残業代の制度を用いていますが、注意すべき点を教えて下さい。(2019.10.25)
- タイムカードの打刻前に掃除を命じられている場合労働時間となるのでしょうか。(2019.05.04)