従業員が私傷病で休職を開始して3か月が経過した頃、突然、退職届と「健康保険傷病手当金支給申請書」という書面を会社に送ってきました。書面の作成に協力したくないのですが、問題はありますか。
更新日:2022.03.18
ご質問:
当社は、建設業を営む会社です。当社の従業員は、大きく分けると、工事を行う作業員と、事務を行う事務員に分けられます。
この度、ある事務員から、プライベートで運動をしている時に怪我をしてしまい、勤務できなくなったとの申し出を受けました。事務員は、多少人員が欠けても何とか対応ができるので、本人の回復を優先し、休職とすることにしました。
ところが、休職を開始してから3か月が経過した頃、突然、退職届と「健康保険傷病手当金支給申請書」という書面を会社に送ってきました。 私傷病で休職となった上に、一方的に退職届を提出するという身勝手なことをする事務員なので、書面の作成に協力したくないのですが、問題はありますか。
回答:
「健康保険傷病手当金申請書」の作成に協力しないと、損害賠償責任を負う場合があるので、協力することが望ましいです。
傷病手当金は、健康保険法等を根拠とする給付であり、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です(※1)。そして、「健康保険傷病手当金支給申請書」は、4枚綴りの書面で、1枚目と2枚目は被保険者本人が記入する書面、3枚目は事業主が記入する書面、4枚目は療養担当者が記入する書面となっています(※2)。
申請書の記入に協力してしまうと、後に労災申請手続や損害賠償請求で不利にならないかと心配される方もいます。しかし、傷病手当金と労災認定手続や損害賠償請求は、異なる制度なので、申請書の記入に協力したことで、労災申請手続や損害賠償請求で不利になるものではありません。
反対に、裁判例では、申請書の事業主の証明欄の記入すべき義務を認めるとともに、これに違反した事業主に損害賠償責任を認めたものもあります(※3)。したがって、原則として、申請書の記入には協力すべきです。
ただし、申請書の中に、事実に反する内容が記入されている場合は、その点を修正して、改めて申請書を提出してもらうようにしてください。
※1 全国健康保険協会 傷病手当金
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat710/sb3160/sb3170/sbb31710/1950-271/
※2 全国健康保険協会 健康保険傷病手当金支給申請書
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r124/
※3 大阪高裁平成23年4月13日判決別冊ジュリスト227号70頁
1988年生 / 札幌弁護士会所属(68期)
2015年12月 アンビシャス総合法律事務所 入所
重点取扱分野:労働法務 / 渉外法務 / 医療法務
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