「こんな会社辞めてやる」といって、職場を飛び出した従業員から「謝罪して出社したい」との要望がありましたが、「辞職」として退職手続を進めようと考えていますが問題ないでしょうか。
更新日:2021.02.24
ご質問:
当社の従業員が仕事を懈怠していたため、社長の私が指導注意したところ、当該従業員は、会社の給料が低いなど文句を言い返し、私と口論になりました。その後、当該従業員は興奮した様子で「こんな会社辞めてやる」といって、職場を飛び出していってしまい、私としても放っておきました。翌日、当該従業員から電話があり、「謝罪して出社したい」との要望がありましたが、このような身勝手な従業員は許せないので、当社として「辞職」として退職手続を進めようと考えていますが問題ないでしょうか。
回答:
労働者の退職の申出には、①辞職の意思表示(労働契約の一方的な解約の意思表示)と②合意解約の申込み(使用者との合意によって労働契約を解約しようとするもの)があります。
①辞職の意思表示の場合、使用者に到達した時点で効力が生じ撤回することができないと解されており(民法540条2項)、期間の定めがない雇用契約においては、原則として辞職の意思表示をなしてから2週間を経過すれば退職の効果が生じることになります(民法627条1項)。
他方、②合意解約の申込みの場合、信義則上に反すると認められる特段の事情がない限り、使用者の承諾の意思表示がなされるまでは、その申込みを撤回できるとされています(大阪地方裁判所平成9年8月29日・労判725号40頁・学校法人白頭学院事件)。そのため、使用者の承諾の意思表示がなされる前に、労働者が合意解約の申込みを撤回すれば退職の効果は生じないこととなります。
労働者がなした退職の申し出が、①辞職の意思表示なのか、②合意解約の申込みであるのか判断基準ですが、裁判例においては、労働者からの退職の申し出があった場合、使用者の態度如何にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる旨の意思が客観的に明らかな場合に限り、辞職の意思表示と解し、そうでない場合には合意解約の申込みと判断されることが多いように思われます(参考:広島地方裁判所昭和60年4月25日・労判487号84頁・全自交広島タクシー事件)。
ご質問のケースでは、従業員が口論により興奮して、「こんな会社辞めてやる」と発言して職場を飛び出していったということですが、その発言の趣旨は確定的に雇用契約を終了させる意思があったと解することは困難であり、合意解約の申込みと考えられます。その後、会社として、当該従業員を放っておいたということですから、合意解約の申込みを承諾したとはいえません。そうすると、当該従業員が翌日「謝罪して出社したい」と述べてきたことは合意解約の申込みの撤回となり、この撤回の意思表示は有効です。
以上のことから、当該従業員の退職手続をとることは許されないと考えられます。
労働者からの一方的な解約に関する労務等、いつでもお気軽にご相談ください。
1985年生 / 札幌弁護士会所属(68期)
2019年5月 アンビシャス総合法律事務所 入所
重点取扱分野:労働法務 / 民事訴訟
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