退職の際に、当社の秘密を洩らさない誓約書を作成していますが、それに加えて、何か対策は考えられるでしょうか。
更新日:2020.05.15
ご質問:
当社では、退職する従業員が、当社の営業上の秘密や、当社で得た知識・経験を活用して、当社と競合する他社に勤めたり、取引をしたりすることを回避したいと考えています。退職の際に、当社の秘密を洩らさない誓約書を作成していますが、それに加えて、何か対策は考えられるでしょうか。
回答:
退職する従業員に競業避止義務を課すことが考えられます。
従業員が、使用者(または元使用者)と競合する会社に就職したり、自ら競合する事業を営まない義務を競業避止義務といいます。
労働者は、在籍中は、会社との労働契約に付随する義務として競業避止義務を負いますが、退職後も競業避止義務を負わせるためには、退職後の競業避止義務を定めた就業規則や誓約書等の特約が必要であるとされています。
もっとも、日本の社会が自由競争原理を原則としていること、労働者には職業選択の自由(憲法22条1項)が保障されていることから、退職後の競業避止義務の有効性は制限的になると理解されています。
以下では、裁判例において、退職後の競業避止義務の有効性を判断するうえで重要視されている6つのポイントについて説明します。
(1)使用者の守るべき利益
使用者にとって価値の高い営業方法や指導方法等に係る独自のノウハウについては、競業避止によって守るべき使用者側の利益があると判断されやすい傾向があります。
(2)従業員の地位
形式的な職位ではなく、具体的な業務内容の重要性、特に使用者が守るべき利益との関わりが判断されています。
(3)地域的限定
地域的限定については、使用者の事業内容や、職業選択の自由に対する制約の程度、特に禁止行為の範囲との関係を意識した判例が見られます。
(4)競業避止義務期間
1年以内の期間については肯定的に捉えられている例が多くなっています。近年は、2年の競業避止義務期間について否定的に捉えている裁判例が見られます。
(5)禁止行為の範囲
業界事情にもよりますが、競業企業への転職を一般的・抽象的に禁止するだけでは合理性が認められないことが多くなっています。業務内容や職種等について限定をした規定については、肯定的に捉えられています。
(6)代償措置の有無
代償措置と呼べるものが何もない場合には、有効性を否定されることが多くなっています。
退職後の競業避止義務は、上記の6つの要素を中心にその有効性が判断されます。いずれの要素についても、明確な基準があるわけではなく、各要素が複合的に判断されますので、就業規則に規定する場合や、万が一紛争になった場合などは、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。
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