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労基法等による賃金の保護

従業員の退職に際し、貸付金を従業員の退職金や賃金と相殺して精算することに問題はありますか。

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更新日:2020.03.13

ご質問

従業員が退職することになりましたが、当該従業員は会社に対し貸付金の返済債務が残っています。退職に際し、会社の貸付金を回収したいのですが、当該従業員の退職金や賃金と相殺して精算することに問題はありますか。

回答

1  全額払いの原則

 退職金も制度に基づき支給される限り、労働基準法の「賃金」に該当します。 賃金は、労働者にとって必要不可欠の生活原資であるので、労働基準法は賃金の全額が確実に労働者自身の手に渡るようにするため、労働基準法は、賃金全額払いの原則(同法24条1項本文)を定めています。
 そのため、賃金と貸付金とを一方的に相殺して精算するためには、労働基準法24条1項但書が規定する賃金の一部控除に関する協定が必要となります。この控除協定で、会社貸付金の賃金・退職金からの控除について定めがなければ、会社からの一方的な相殺はできません。

2  判例による例外

 賃金全額払いの原則に対し、判例は一定の場合に限って例外を認めています。最高裁判所平成2年11月26日判決(日新製鋼事件)は、「労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」は、労働者の同意を得てした相殺は賃金全額払いの原則に違反するものではないと判断しています。
 ただし、この判例で認められているのは、一方的な相殺ではなく、当事者の合意による相殺(相殺契約)であることに注意が必要です。更に、労働者の自由意思が認められるかどうかは慎重な判断が要求されますので、労働者の自発的な依頼によって行われるものではなく、会社から積極的に相殺同意を求めるなどして強要にわたるような場合には、「自由な意思」に基づく同意と評価されない可能性があります。

3  本件事例への対応

 本件事例も、賃金の一部控除に関する協定がない場合には、会社の貸付金を従業員の退職金や賃金と一方的に相殺して精算することは許されません。

 この場合は、会社からの相殺につき、従業員が自由な意思に基づき同意した場合に限って認められることになりますが、上記2記載のとおり、「自由な意思」といえるかどうかは、同意に至った経緯や態様、従業員にとっての利益性などに照らし、厳格に判断されますので、「合意書」や「同意書」といった書面を作成しておくことは勿論、慎重に検討・対応すべきものと考えられます。

労基法等による賃金の保護に関する労務等、いつでもお気軽にご相談ください。

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