従業員が業務とは無関係な事情により、うつ病が発症したため私傷病を理由に休職していますが、休職期間を満了しても復職できないので解雇しても問題ないでしょうか。
更新日:2020.05.13
ご質問:
当社の就業規則には、従業員が「心身の故障のため職務の遂行に支障があり又はこれに耐えられないとき」には解雇できるとの規定があります。従業員が業務とは無関係な事情により、うつ病が発症したため私傷病を理由に休職していますが、休職期間を満了しても復職できないので解雇しても問題ないでしょうか。
回答:
1 解雇権濫用の法理
労働契約法第16条は「解雇は、客観的な合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とする」と解雇権濫用法理を規定しており、かかる法理は普通解雇、懲戒解雇を問わず、あらゆる解雇に適用されるものです。
それゆえ、就業規則に解雇事由が定められている場合であっても、単に就業規則の手続を踏めば当然に解雇が有効と解されるわけではなく、解雇権濫用法理が適用され、解雇の有効性が判断されることになります。
2 私傷病による能力欠如による解雇の有効性
本事例における解雇の有効性はケースバイケースではありますが、一般的には休業期間が経過したことのみをもって解雇が有効と解することはできないと考えられます。
すなわち、心身の故障により休職中の従業員の治療経過(症状の程度や治療期間等)や解雇時における業務への回復可能性、他職務への配置可能性等を十分に考慮した上で、解雇権濫用法理に違反しないかを慎重に検討する必要があります。
この判断にあたっては、休職中の従業員から連絡を待つという受け身の姿勢ではなく、使用者において、その判断に必要となる情報・資料の取得を積極的に試みることが重要です。
診断書の取得や本人と面談を行うなどは当然ですが、従業員の同意を得た上で主治医と連携を取る、産業医の意見を求めるなど、可能な範囲の方法を尽くした上で解雇しなければ、当該解雇は無効になる可能性がありますので、解雇権濫用法理に照らし慎重な検討が必要不可欠になります。
3 その他の対応策
上記2で述べましたとおり、会社側が休職中の従業員を解雇した場合の有効性は明確に判断することが困難であり、解雇後、従業員から当該解雇は無効であるなどとして争われるケースは少なくありません。
そのため、会社側の立場からすれば、当該従業員が復職したとしても今後の業務に耐えうるかなど、従業員本人(場合によっては、その家族も含めて)と真摯に話し合いを行い、復職が難しいようであれば退職することを勧奨し、自主的に退職届を提出してもらえるよう働きかける方法が考えられます。
この方法による場合、従業員から退職を強要されたなど言われないようにするため、退職勧奨は社会通念上相当な範囲で行うべきです。勧奨時間も長時間にわたらないようにすべきですし、回数も1、2回程度に留めるべきでしょう。
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