就業規則に定められた解雇事由以外の理由で、勤務態度が悪い従業員を解雇することはできるのでしょうか。
更新日:2020.05.22
ご質問:
当社の従業員Aは、勤務態度があまりにも悪く、他の従業員にも悪影響を及ぼしているため解雇したいのですが、当社の就業規則では従業員の勤務態度を解雇事由として定めておりません。就業規則に定められた解雇事由以外の理由で、当該従業員を解雇することはできるのでしょうか。
回答:
使用者が労働者を懲戒するには、就業規則に懲戒できることが定められていることが必要です。ところで、就業規則に懲戒についての規定があったとして、就業規則ではあらゆる懲戒事由を具体的に列挙できるわけではありません。そのため、懲戒事由として就業規則に明記されていないものの、労働者の行為が到底許せないものとして懲戒したい場合もあります。
就業規則に定められた解雇事由以外の理由で従業員を解雇できるのかという点については、①就業規則に定められた解雇事由は限定的に列挙されたものであり、その他の理由で解雇することはできないという説(以下「限定列挙説」といいます)、②就業規則に定められた解雇事由は例示的に列挙されたものにすぎず、その他の事由で解雇することも可能であるという説(以下「例示列挙説」といいます)という考え方があります。
従来の裁判例は、限定列挙説に立ち、就業規則に定められた解雇事由に当たらないことを理由に解雇を無効と判断したもの(大阪地方裁判所平成5年3月22日判決、徳島地方裁判所平成9年6月6日判決)が多くありました。
しかし、近年では、例示列挙説に立ち、就業規則に定められた解雇事由以外を理由とする解雇を有効と判断した裁判例(大阪地方裁判所平成13年3月30日判決、東京地方裁判所平成12年1月21日判決)も多く存在します。そして、札幌高等裁判所平成18年5月11日判決は、「就業規則において普通解雇事由が列挙されている場合、当該解雇事由に該当する事実がないのに解雇がなされたとすれば、その解雇は、特段の事情のない限り、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」と述べて、例示列挙説の考え方に立ち、就業規則に定められた解雇事由以外を理由として解雇することの余地を認めつつ、特段の事情のない限り、就業規則に定められた解雇事由に該当する事実がない場合には、当該解雇は無効になると判断しています。
以上のような裁判例の傾向に鑑みれば、ご質問頂いたケースでは、就業規則に定められた解雇事由以外の理由である従業員の勤務態度を理由として、当該従業員を解雇できる可能性はありますが、当該解雇が無効であると判断されてしまう可能性も相当程度あると考えられます。そのため、実際に解雇するに当たっては、当該事案に則した慎重な判断が求められることとなります。ただし、就業規則には、具体的な解雇事由の他に「その他やむを得ない事由」や「前各号に準ずる事由」等の包括的な解雇事由が定められていることが多いので、まずは、就業規則の内容を慎重に確認するべきであると考えます。
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